カンヌ国際映画祭で女優賞を受賞した女優たち

作品について

ネタバレ全開で

さて、今作については結婚を予定していた2人が過去を回想して改めて愛を誓い合う、もしくはまだ離婚していない妻の夫が彼女を取り戻そうと躍起になるのか、などと予測が立てられます。しかしこの物語の真髄は、主人公たるマリーの夫であるアフマドが娘であるリュシーと話をしたことによって、マリーと現恋人であるサミールの歪さ、そして彼女たちの行動に翻弄されていく子どもたちという構図が浮かんでくるのだ。

それを第三者であるアフマドが紐解いていき、彼らの心の中で抱いていた一つの感情を導き出すのです。マリーにしてもサミールにしても、そしてリュシーにしても秘めたる思いを吐露することで、ようやく本音を打ち明けるようになるのだった。ただこうした親の行動で振り回されているのがリュシーの妹であるレア、サミールの息子フォアドの2人。彼らも物語には関わっていますが、本筋から一歩距離をおいたところで、本流に巻き込まれてしまうという立場に置かれています。不憫という言葉を当てはめるのは良くないのですが、親の身勝手さに振り回されているのでやるせない気持ちになります。

またアフマドはこの歪な関係を築いているそれぞれを見ていくことで、どうしてわざわざ自分を呼んだのかをも理解します。そう見れば今作の主人公はマリーになっていますが、裏主人公的な立場にアフマドは置かれていると言えるでしょう。事実、彼もまたマリーとサミールに翻弄されるかと思いきや、とても冷静に事を対処していくのだった。

抱えていた秘密とは

ではマリー・サミール、そしてリュシーの3人は何を秘密にしているのか、という点について話をしていきたい。物語の展開でもこれらが大きな鍵を担っているわけだが、中でもマリーとサミールの2人には思うところがあり、またそれによってなんとか関係を繋ごうとする必死さもあった。それをアフマドが解くことで、特にサミールを一番突き動かす結果になるのです。ではそれぞれの心情などを鑑みて、何を秘密にしているのかを簡単に説明していこう。

マリーの場合

まずはアフマドを呼び寄せたマリーでしたが、彼女は正式に離婚するための手続きを行おうとする目的でしたが、当然意図は他にあった。アフマドはホテルに泊まろうとしますが、何故か彼女は自宅に泊まれと言ってきたのです。疑問しかありませんでしたが、それがリュシーとの相談に託つけられていたため、無下にすることも出来ずにかつて住んでいた家へとアフマドは足を運んだ。そこでは新生活を待ち構えている様子は確かにありましたが、同時にアフマドはなぜこの時期になって自分を呼び、しかも自宅に泊めたのかをマリーに問いかけるようになる。

ではどうしてなのかというと、マリーにとってアフマドという男性は今でも特別なものであり、別れてもいまだに胸に秘めた感情を忘れられる事が出来なかったのだった。こんなに愛しているのに報われない、ならば今の状況を見せて後悔させてやろうと必死だったのです。けれどそれが愛ゆえの行動であっても、アフマドは既にマリーとよりを戻すという選択肢を持っておらず、彼女に何を言われても反応しなかった。

結果的に2人は離婚が成立、その後はお互いの道を歩くことで事は全て終わってしまうのだった。

サミールの場合

続いてサミールについて語ると、彼もまたマリーとは違った思惑を抱えていたのです。ですがそれは決して邪な物ではなく、見ていられないからこそ目を背けたかったのが本音にあった。そもそもマリーとは不倫関係にあり、妻であったセリーヌはその事実からショックを隠しきれず、彼が経営するクリーニング店の洗剤を飲んで自殺事件を起こした。命こそ落とさなかったものの、植物状態になってしまった彼女を見ていられなかったサミールは、マリーとの恋愛にかまける。

しかしその実、サミールは本当にマリーを愛していたわけでなく、ずっと心の奥底でセリーヌだけを愛していたのだ。誰に言うわけでもなかったが、やがて辿り着いたある事実に直面したことでマリーとの関係を清算、誰を真実愛しているのかを思い出してそちらの元へ戻っていくのです。

リュシーの場合

そしてこの物語で親に振り回され、同時に親の再婚が気に入らなかったからという理由で、ある1つの事実を引き起こしてしまったリュシーもまた、本作の鍵を握っていた。どういうことかというと、それ彼女が浮気の証拠となるマリーとサミールのやり取りのメールをセリーヌに送っていたのです。離婚し、自分勝手な母の奔放さに嫌気が差したリュシーの行動は母を諌めるはずだったが、自分のしたことで人が死ぬ寸前まで追い込まれてしまったのです。

事実を隠していたリュシーはアフマドの前で、ようやくそれを口にした。マリーには口が裂けても言えないと頑なに拒否していたが、アフマドの説得に応じてやっとマリーに伝えるのだった。言ってしまえば被害者の1人であるリュシーの行動は責められるものではないでしょう。

最終的に

ドロドロの展開が待ち構えている今作、最終的にマリーとサミールの間における再婚の話はすべてなかったことになり、マリーのお腹にいた子供もなかったことにしようという結論に至った。要するに堕胎するということなのでしょうが、明確な描写は用いられていないため詳しい事実は明らかにされていません。

サミールは妻の元へ、マリーは再度シングルマザーとして生活をしていくことになる。一方でアフマドはことが全て終了した後はイランに帰国しているので、結果からすれば何事も無事終わった。